今年も七夕祭りがやってきた。傷ついたアタシの思い出を抉って捨てるように。

 アタシは立花夏帆、高校2年。
 アタシが住んでいる仙台の七夕祭りは旧暦、つまり8月7日に開催される。アーケードに七夕飾りが彩られてキレイだ。でもアタシはこの祭りを心から楽しめない。3年前のあの事故のせいで・・・。


 中学2年の頃、アタシにも彼氏がいた。伊藤拓真。
 元々幼馴染だったが、大好きだった。付き合っていた頃は幸せだった。

 幸せを奪ったのはあの事故。でも原因はアタシ。

 七夕祭りにデートで行ったアタシらははぐれてしまい、互いを見つけたのは横断歩道の向こう側。
 信号も見ずに走ってくる拓真。赤色の信号機。来ないでと叫ぶアタシ。迫りくるトラック。甲高いブレーキ音。
 目を塞いだアタシが再び目を開けた時飛び込んできたのは、血まみれで倒れている拓真。聞こえてきたのは人間の悲鳴と車のブレーキ音の大合唱。
 溢れそうになる涙を堪えてアタシは拓真に駆け寄って、その体を抱きしめた。
「はぐれてごめんね。これ買ってたんだ」
 そう言って拓真はポケットから2つのおそろいのブレスレットを取り出した。
「うん。似合ってる」
 嬉しそうに言う拓真。アタシは流れ出した涙をごしごしと拭って言った。
「ありがとう」
 拓真は少し青白くなった顔で笑った。

 その後、アタシは誰かが呼んでくれた救急車に乗り、拓真の両親を呼んだ。

 そして、拓真は死んだ。殺したのはアタシ。あの時はぐれなければ、手を繋いでさえいれば、拓真は死ななかった。
 だから、アタシは絶対に拓真のことを忘れない。そう決めたんだ。