9年前の二人はスナックやキャバクラなど、夜のバイトをしながら昼間はレッスンやオーディションに励んでいた。

けれど千香は23才ですべてのレッスンを止め、小さな会社に就職した。

事務職といえば聞えは悪くないものの、受付から雑用まで全部こなさなければいけない。


「いいなぁ、亜里沙は」


愚痴を出し切った千香の口から、今度は羨望の声がもれた。


「そんなことないって。私も悩んでるから、千香と同じだよ」

「でも亜里沙の悩みは贅沢だと思う」

「贅沢? これでも本人は深刻なんだけどね」