中3の夏休みと言えば、世間では受験一色だけど、ほとんどの生徒が高等部に行くうちの学校の場合、外部の高校を受ける一部の生徒以外には、受験は縁遠い話だった。
それは、私と恵子にも、当てはまることだった。

理先輩が、私と恵子を、自分の家の別荘にに遊びに来ないかと誘ってきた。
毎年、夏休みの期間は、入れ替わりで先輩の友人たちが、来て何日か滞在して帰って行ってるらしい。
その場に、私と恵子も来たらいいと、誘ってきた。

恵子は、以前にも誘われたことがあったけど、その時は恵子の親が恵子だけが学年が違うのに迷惑になると反対したらしい。
「恵理子が一緒なら、許してもらえるかも。」と恵子は、喜んでいた。
「聞いてみるけど、いい答は期待しないでください。」と私は言った。

それは、理先輩とつきあうことになって、理先輩の素性を親に話した時に、言われた事が、頭にあったからだった。
「うちの家とは、世界が違うという事を考えて、おつきあいしなさい。そうしないと、自分が傷つくことになる。」と言われたからだった。

うちは、別荘なんて考えられない地方公務員だ。世界が違い過ぎる。
別荘滞在なんて、果たして許してくれるだろうか?

ドキドキしながら、母に理先輩に別荘に誘われたこと、恵子も一緒だということを話した。
やはり、いい顔はしていなかった。
「行きたいの?」と母に聞かれ、「できれば。」と答えると、母は恵子の家に電話をかけ始めた。

しばらく、恵子の母親と話していたが、電話を切り、私に向かって「行ってきていいわよ。」と言った。
「恵子ちゃんとお母さんが、言ってたけど理先輩ってなかなかしっかりしているみたいじゃない。どんな子かも知らなかったし、いきなり、別荘に誘うなんてと思ったけど、恵子ちゃんのお母さんが信用してるんだから大丈夫でしょう。」「私も恵理子を信用するからね。」と言われ、思いもかけず、理先輩の家の別荘行きが、決まった。

これが、理先輩の家の別荘で過ごした初めての年になった。
そして、ずっとずっと、続くと二人とも思ってたはずだったよね。たぶん。