サンセットの中での階級では、クラリス嬢のような貴族が一番上だけれど、サンセットを出ればさらに上がいる。
その上というのが、吸血鬼や悪魔なんかの、『人ならざる者たち』だ。
『人ならざる者たち』の中には、化け物のように人を食い荒らすだけの存在もいれば、吸血鬼のように知能や財力をもつものもいる。
そんな彼らは、人間の貴族を圧倒し、支配させる力を持っている。
そんな奴らがいたら、サンセットはいつ潰されるかわからない。
だから人間たちは、サンセットを作った時に、数々の権利を吸血鬼たちに譲ったのだ。
そしてその権利を譲る代わりに、サンセットには一切手出ししない、ということを約束した。人間とそうでない者たちが結んだ、最初で最後の規定なのだ。
そしてその権利の中には、こんなものも混ざっていた。
『「人ならざる者」が人間の花嫁または婿を迎える場合、その選択権は「人ならざる者」にある』
簡単に言ってしまえば、「人間の妻を、吸血鬼や悪魔が自由に選べる」ということ。
人間に、拒否権は存在しない。
けれどこれは、人間の貴族にとっては大きな出世でもある。
たいていの「人ならざる者」たちは、貴族の中から気に入った女性を選ぶことが多いのだけれど、娘を嫁に持って行かれた貴族の家には、身請け金として莫大な金額が贈呈されるし、連れて行かれた女性も、相手がよっぽど酷い奴でない限りは、贅沢な生活をさせてもらえるのだ。
だからクラリス嬢は、こんなに喜んでいるのだろう。
「ノア、特別にあなたも、私と一緒に来てアルハイド伯爵に会ってもいいわ。だから、もし何かあったら、私のことを褒めて、アルハイド伯爵との仲をとりもってね」
「はあ……ありがとうございます」
一応お礼はいったけど、正直わたしは、吸血鬼なんかに会いたくはなかった。