一応受け取ると、温かいスープの良い匂いが鼻をくすぐる。そういえばものすごくお腹がすいていた。

「ありがとう……ございます」

ぺこりと頭を下げると、「いえ」と素っ気ない返事。この家に仕えている人だろうか。
あんまり表情を変えないので、わたしのことが全く眼中にないのかと思えば、そうでもないらしい。時々ちらりと視線をよこし、顔を上げると、何事もなかったようにそっぽを向く。

「あ、あの」

思い切って声をかけると、「なんですか?」とまたしても短い返事。それでも一生懸命、たずねる。長い間寝ていたせいか、口がうまくまわらない。

「わ、たし、その……どうしてここにいるんですか?」
「……そのことでしたら、この屋敷の主に聞いてください。もうすぐいらっしゃるはずです」

情報ナシ。いきなり主に聞けと言われたって、どんな人かもわからないのに。……とりあえず、お金持ちなのは確かみたいだけど。

「じゃあ、ここは、どこですか…?」

せめてそれくらいは、と弱気な声をだすわたしに、執事さんは淡々と答えた。


「アルハイド伯爵の屋敷です」


それだけ言うと、「それでは」とくるりと背を向けて、足音も立てず、ドアの向こうに消えて行った。
独り残されたわたしは、ベッドの上でぼんやりと、つぶやいた。

「……アルハイド伯爵……」

聞き覚えがあるなんてものじゃない。

庶民出のメイドであるわたしですら知っている、由緒正しい貴族。
そして……。


――ゴーストタウン一の、吸血鬼の貴族だ。