どちらからだなんてわからなかった。


ただ、自然とお互いの顔が近づいていた。


そして、触れたんだ。



唇と唇が…。



きっと、何かが壊れたのかもしれない。


壊れたものは何?


わからない。



ただ、あの時、俺は彼女を愛しいと思った。


気高く、涼しい顔をしている彼女の弱さを見た気がした。


今より少し幼い俺は、彼女が泣き止むまで髪を撫でながら抱きしめるしか出来なかった。


どんな言葉をかけても嘘っぽくなってしまうと思ったから。