「けーすけ」



彼女の唇から紡ぎ出される俺の名前。



「けーちゃん。けーすけ。バカけーすけ」



悪戯っぽく言う彼女。


その姿がなんだか幼くて思わず吹き出してしまった。



「…やっと笑った」



彼女はそれだけ言うと「帰ろうか」と言っていつの間にかあいていた缶コーヒーの空き缶に吸い終わった煙草を入れていた。



「けーすけ、おいで」



両手を広げる彼女。


俺はそれに答えるように彼女の腕の中に入る。


彼女は耳元でこう言った。




「頑張らなくて良いからね」



そして、俺の右手を取り



「…真っ黒。頑張ったんだね」



と言った。


図書室で勉強をしていたときに擦れたのだろう。


俺の右手は真っ黒になっていた。



「帰ろう」



そう言って、俺たちは車の方へと二人で歩いた。


繋がれた手は、そのままで。