愛、桜

風はない。なのに舞った多くの桜の花びら。大地から空へと桜色の柱がいくつも伸びた。
「な、なんだ、これ」
優は天を見上げた。けれども、この柱の先がどこまで続くのか想像も出来ないほど高くて、空に浮かんだ星を眺めるかのように首を仰向けた。
「きれいなり・・・」
力ない瞳にも桜色は映る。キラキラと輝き、何かを告げようとしているようだった。
花びらが麻友を覆う。慌てて優は振り払おうとするが、あまりの量にそれはできず、それどころか麻友が見えなくなってしまった。
「麻友!麻友!」
優は叫ぶ。
「麻友!」
麻友の母親も一緒にどうにか救おうと必死に抗った。が、ダメだ。麻友は完全に花びらに飲み込まれた。
「麻友、なんでだよ。麻友ぅ」
涙しかなかった。この美しい光景を前にして、あまりにも不釣り合いな大粒の涙。
「優、泣かないでいいなり」
聞こえた。麻友の声だ。しかし、どこから聞こえてくるのかわからない。あまりに多くの花びらが方向感覚をおかしくしていた。右も、左も、上も桜色。自分が正しく立てているのかも怪しいものだ。
「どこにいるんだ?」
「そこから動かないでいて欲しいなり。あと少し・・・」
「あと少しってなんだよ。無事なのか?」
「大丈夫なり。だから、少しだけ。もう少しだけ・・・」
「わかった」