愛、桜

「麻友?麻友?」
母親は何度も麻友を呼ぶが上の空だ。あまりにも様子がおかしい。母親は麻友の視線の先に何があるのか、必死に確認した。街灯の光だけだから、それも公園の街灯だから数も少なく、所々薄暗いから見づらいところが多い。それでも娘がおかしくなった理由を知らないままで済ますなど出来ない。それでもなかなか見つからなかった。
「麻友、何を見たの?」
「・・・」
泣いていた。麻友はあるベンチを指差した。その先を母親も見ると全てが繋がった。
「・・・優」
遠いからはっきりとわからないが、優が誰かとキスをしているかのように見える。
それから先は何も言えなかった。娘をけしかけていた位だから、まだ麻友と優の間に何かがある訳ではない。つまり、そうであるなら優が娘以外の誰かと、何か恋人的な行為をしていたとしても、口を挟むなどもってのほかだ。
しかし、この娘の深い悲しみはほっとけるはずもない。
娘を黙って抱き寄せた。泣きたいだけ泣かせてあげた。
「あれ・・・」
気がついた。おかしい。僅かながらではあるが、娘が小さく感じられた。一度離れ、顔を覗き込んだ。
「ま、麻友・・・」
驚き、声をあげた。それもそのはずだ。娘の顔が自分そっくりになっている。目元や口元のしわ、肌の張りなどどう見ても高校生のものではない。そして、こうしている間にも年齢は加速度的に増しているとわかる。
「どうしたって言うの?」
「お母さん、体が重いなりよ」
細い足がさらに細くなり、小刻みに震えている。