愛、桜

「ねぇ、知ってる?」
「何を?」
先に帰ると言う一言が言えず、優はみなみと一緒に歩いていた。みなみは積極的に優に近づいて歩こうとするが、優はそれに戸惑い、わずかに離れようとする。そして、みなみは再び追い掛ける。まさにいたちごっこだ。しかし、それさえもみなみは楽しんでいた。
「この近くにとてもいいところ、あるんだ」
「いいところって、どんなところ?」
「知りたい?」
「そりゃ、そんな風に言われたらね」
「じゃ、来て!」
みなみは優の手のひらを取った。そして、強く握った。まるで恋人のように、もう二度と離さないと告げているかのように。
「あ、強いって」
あまりの強さに引きずられそうになった。
「そんなこと言わない~。早く行きたいでしょ!」
無邪気なみなみの笑顔は、本当に素敵で、優は一瞬見とれてしまった。
「なに、そんなに見て?好きになっちゃった?」
心揺さぶられる一言。優は気の利いた言葉一つ返せず、みなみの視線を外した。
しばらくの間黙ったまま歩く。すると、みなみの連れて来たかった場所についた。気まずい雰囲気のようで、二人は手を繋いだまま、厳密にはみなみが握ったまま離さないと言った感じなのだが、とにかく不思議な状況であるのは間違いなかった。
手のひらに浮かぶ汗が鬱陶しかった。