道端に桜の花びらが絨毯を敷き詰めたかのように広がり、どぎつくはない心地よいピンクとして目に飛び込んできた。
それを見て麻友は言った。
「きれいなり。ね、優もそう思うでしょ?」
優は半ば呆れた様子で、軽く頭を掻きながら答えた。
「きれい、きれいだよ。でもさ、もう高校生なんだし、その“なり”って言うのはないんじゃないか?」
「ん、何がいけないなり?」
この春、二人は高校に入学した。幼稚園の頃から一緒だから、十年ほどの付き合いになる、いわゆる幼なじみってヤツだ。だから、優にとってはこの“なり”と語尾につけるのが、あるアニメの影響だと知っているし、それ以外の事だって、他の誰も知らない秘密でも、優はなんでも知っていた。
けれども、恋愛感情のようなものはないままだった。優が相当のイケメンであるにも関わらず、そして麻友が相当の美少女であるにも関わらずにだ。
「また・・・」
「何を怒ってるなり?」
「いやいやいや、怒っているよりも呆れてるんだけど・・・」
「呆れる?何を?」
「そのなんとか“なり”だよ。周り見てみろ。そんな風に行ってるやついるか?」
帰りの通学路。他の生徒たちの会話に耳を澄ますと、優の言うとおり、語尾に“なり”をつけている者はいない。