「な、何?」
「もう予約の時間だって。急がなきゃ」
無理やりに話を変えるには、これ以上耳を赤くしないためには、これくらい強行にならなければいけない。強すぎる力で手を引いた。
「痛いよ、哲。ちゃんと、ついて行くから、もう少しやさしく・・・」
亜紀の一言に、我に返った哲は立ち止まった。
「ご、ごめん」
「ううん、私こそからかってごめんね。それより予約の時間でしょ?行こうよ」
「あ、うん」
指を絡ませるように手を繋ぎ、二人は店の庭を過ぎ、店の中へと入っていった。
「いらっしゃいませ」
一歩、店に踏み入れると、そこは別世界になっていた。店の至る所に飾られた花々。特に入り口に飾られた花は、まだ早いはずの桜で、その淡い桃色と適温に設定された部屋の温度が、そこまで来ている春を感じさせた。
「予約した・・・」
哲の言葉に亜紀の言葉が重なった。
「きれい・・・」
心の底から出た言葉に、二人を迎えた初老の店員は目を細め感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます。お気に召されましたか?」
「はい、とっても。でも、この時期に桜なんて、どうしてですか?」