「もうしばらくお待ち下さい」
この間にあの女のスタッフが、用意周到に資料を作っているとは夢にも思っていない。談笑し、そもそもここに何をしに来たのか忘れてしまうほど、リラックスしていた。
「ここにしない?」
美玲が言った。
「そうだなぁ。悪くないかもな」
二人の出会いは共通の趣味であるサーフィンだったから、海の美しさに惹かれずにはいられなかった。ただでさえ、美玲は結婚式と言うものに憧れを抱き、常日頃から想像の住人として楽しんでいる。そこに自分の好きな海が加わったのだから、当然と言えば当然だ。
そして駿も、そんな美玲の笑顔を見ることでアガっていた。だからよく考えもせずに答えていた。
見合わせ笑う二人のところに、さっきのスタッフがやってきた。
「あれ、どうしたんですか?楽しそうにして」
腰をかがめ、そう言いながら駿の右隣に座った。
「あ、いや、別に」
あらためて言われると恥ずかしいもので、スタッフの顔を見ずに駿は言った。
「そうですか。それより資料の作成にお時間掛かりまして、誠に申し訳ございません」
駿の答えを気にするでもなく、資料をテーブルの上に広げ始めた。式場の美しさを可能な限り表現したパンフレット、会場の席次がイメージしやすいようにとされた見取り図、来賓者に出す料理や引き出物のカタログ、様々にあった。
「すごい量だな」
駿は勉強の類はからっきしだ。茶色と言うより金髪の、立てられた髪が物語っている。だから、この資料の山にやや引いた。