目の前には海が広がっていた。少し離れたところには、ヨットハーバーがあり、鮮やかな白のマストが、さながら海という草原に咲いた花のようにも思えた。
「いかがですか?」
こざっぱりしたパンツスタイルのスーツに、黒い髪を後ろに束ねた女が言った。
「この景色素敵ですね。みんな、喜ぶだろうなぁ」
想像の中で、一人悦に入っているもう一人の女。名前を美玲と言った。
「ねぇ、駿もそう思わない?」
「確かに気持ちいいなぁ」
髪を後ろに束ねている女に促され、二人はテラスに出た。すると潮風が二人を包み、都会でありながら、どこかのリゾート地にいるかのような錯覚を起こさせた。
「すごい、すごいよ!」
ガラス越しに見るよりも、はるかにマストの花が鮮やかだ。
「マジだ。気持ちいいなぁ、ここ」
駿の短い髪が風に揺れる。
「ですよね、気持ちいいですよね。この場所で誓いの言葉とか、素敵だと思いませんか?うらやましいなぁ」
髪を束ねた女は、二人に式場を案内していた。彼女はテラスに作られた祭壇を指差した。視線を上にやると、白い十字架がある。
それを見て、美玲はそこに走った。
「すごい、すごい、ここいいよ!絶対にいいよ!」