「なんだい?」
老婆が返事した。
凍る。世界が凍る。この返事の意味するものはなんだ。偶々なのか。しかし、しかし、しかし・・・。逆接が繰り返される。
「えっ?あ、亜紀なのか・・・?」
「・・・だから、なんだって言うんだい?」
間違いない。この老婆は亜紀だ。テレビでプロジェリアって病気を観た事がある。確か、一年で十年分くらい歳をとる病気だ。しかし亜紀のそれは、プロジェリアをはるかに上回る速度となっている。たかだか数分で五十歳は歳をとっている。そんなのがあり得るだろうか。
「う、嘘だ。」
哲は後ずさりを始めた。
「こ、こんなの嘘だ。」
また一歩下がる。
「ここにいるのは亜紀なんかじゃない。亜紀なんかじゃないんだ。」
この叫びだけは亜紀に聞こえていた。亜紀は戸惑い、哲に話しかけようとした。が、それよりも早く哲はその場を去った。全力で、とにかく店から出ていった。
店には年老いた亜紀と散り枯れた花だけが残された。