「小さい・・・」
そうだ。亜紀は小さくなっている。もちろん、小人になったとかではない。気持ち縮んだと言った風だ。
「おい、嘘だろ。こんなのって」
もう一つに気づき走った。席に戻り亜紀の顔を見た。
「だ、誰・・・ですか?」
目の前に知らない老婆がいた。本当は“誰だ!”と強く言いたかったが、さすがに老婆にその言葉遣いはないと思い、少し考え語尾を変えた。
「?」
目を細め、哲を見る老婆。相当に目が悪いようだ。
「・・・」
どうしたらいいかわからず、何も言わず、一歩だけ老婆に近づいた。老婆もそれに呼応してか、わずかに身を前にやった。それでもはっきりとは見えないようだ。
「哲?」
枯れた声で言う。それもあるのか、やや鼻につく口臭が哲に届いた。
「な、なんで俺の名前を知っているんだ・・・」
「哲?」
譫言のように言う。認識しているのではない。哲の頭に死んだ祖母の事が思い出された。彼女は痴呆症であり、こんな風に何度も自分の名前を呼んでいた。意味もなくだ。この老婆の言葉もそれと同義のようであり、名前を知っているのではなく、偶然と片付ける方が自然であろう。と無理やり結論づけた。そうでなくては怖くていられないのだ。
「あ、亜紀は?亜紀はどこに?」
老婆は答えない。でも、この老婆が亜紀の服を着ている事実は揺らがない。トイレに立ったわずかの時間に何があったと言うのだ。
「あ・・・亜紀・・・」
名前を呼ぶしかなかった。