予想通り、何度も繰り返される会話。
 騒ぎを聞きつけたのか、何人ものメイド達が窓からこちらを覗いている。

 これだけ野次馬が増えているのに、肝心のエレーナは何故出てこないのだろうか。
 さっきの言葉が脳裏に浮かぶ。

『それは拒絶されたのではないか?』

 そんなはずはない!
 彼女は情を交わす時、優しく受け入れてくれた。
 一夜の情事ができるような女性でもない。

「なぜ、エルシルド様は血統も身分も低いエレーナを妻と主張するのですか?」
「彼女を昨夜、妻にしたからだ」

 何度も繰り返されてきた言葉に、少しだけ疲れを感じた。

 しかし、ある意味、もうどうでもいいかもしれない。
 これほどの騒ぎになったのだ。
 明日には王宮中知れ渡っていることだろう。
 面倒な説明もいらなくなるはずだ。

「では、なぜエレーナは証明書に署名する前にこの寮に戻ってきたのです。しかも、たった1人で!」
「彼女が深く眠っていると思って証明書をもらいに行っている間、彼女は私がいなかったので誤解してこっちに戻ってきてしまっただけだ。彼女に会わせてくれればその誤解も解ける!」

 同じことを説明してるとなんとなく情けなくなってくる。
 これではマヌケな男と自分で公言しているようなものだ。

 なんとなく上の方でメイド達が煩くなったので、そちらを見れば、エレーナがこちらを見下ろしていた。

 やっと姿を見せてくれたのだ。
 エレーナを見ただけで、愛しさが溢れ出してくる。

「エレーナ!」

 彼女を呼ぶと、悲しげに笑って少しだけ身を乗り出してきた。

 なぜあんな悲しそうに笑うのだ。
 愛されなくても彼女にはいつも笑顔でいて欲しいのに・・・。