「エレーナを妻にと言うならば、証明書を見せて頂きたい」

 証明書。
 それこそが一番大事なところなのだ。

 オスは発情期に入ると自分の欲求を満たすことを本能が求める。
 つがいの相手はたった1人だが、それ以外のメスと情を交わすことが普通だ。
 しかし、自分の子であろうと、つがい相手が生んだ子しか世話はしない。

 つがいとの子以外には冷たいものなのだ。

 子は自分のすべてを引き継ぐ。
 地位や財産などを含めて。
 それゆえに証明書が必要となる。

 証明書に記載されし者こそが自分の妻であり、その者の生んだ子は自分のすべてを継ぐ子供だという証明だ。

 子は両方の容姿を引き継いで生まれる。
 容姿を見れば誰との子か一目瞭然。
 血の交わりはそれほど如実に真実を暴くものなのだ。

 しかし、証明書はない。
 用紙を取りに行っている間にエレーナは部屋を出て行ってしまった。
 一方的に記載したとしても、提出には両名がそろって教会に出向かなければならない。
 記入しただけの証明書など、何の意味もなさないのだ。

「証明書はこれから書くはずだった」
「はず? ・・・ですか?」
「用紙を用意してなかったので、受け取りに行く間にエレーナがこっちへ戻ってしまったのだ」

 オレの言葉にガーディアンは少しだけ気の毒そうな表情を浮べる。
 声にならないガーディアンの声がオレには聞こえた。

『それは拒絶されたのではないか?』・・・と。

「きちんと話をしてなかったかったせいで、誤解されただけだ」
「・・・・・・」

 何故、メイド寮の前でいつまでもガーディアンにこんなことを説明しなければならないのだ。
 そんなことより、早くエレーナを呼び出してくれればいいものを!

「とにかく、早くエレーナを呼んでくれ」
「・・・エルシルド様の一方的な言い分だけでは呼び出せません」

 同じ会話を繰り返しそうな言葉に、少し頭が痛む。