「……椿さんは」

「ん?」

「いつも何聴いてるの?」



そろそろ帰るねと言って、彼女は鞄から携帯とイヤホンを取り出した。


涙に触れない程度でどこまで踏み込んで良いのか分からなくて、今まで聞かなかったことだ。

ーーだって彼女が泣いている時、必ず耳にはイヤホンがあったから。


ただ、もう少し彼女と話していたかったという理由でもあるけれど。

彼女はドアに向けた身体を再び僕の方に向けた。



「……『Ring』っていう曲。でも、右京君は知らないかも」

「うーん……誰が歌ってる?」

「実は知らないの。友だちに教えてもらったんだけど、20年以上前の曲らしくて」