僕たちが二人とも何も話さなくても、グラウンドから響く野球部の声で静かにはならない。


何度も迎えた状況だけど、いまだにどうすれば良いのかということは分からなくて。

安易に言葉をかけるなんて、できなかった。



「……右京君?」



彼女の声にハッとする。

どっちで呼ぶか最初は悩んでいた彼女だったけれど、しばらくして“右京”でおさまったらしい。
その方が僕としても嬉しかったから良かった。

慌てて笑顔を作って応える。



「大丈夫?」

「あ、うん。ぼーっとしてただけだから」

「それならいいんだけど」



目は少し赤いまま。

それでも彼女は涙を隠すから。


この一ヶ月、触れずにいた。