彼女が携帯電話を開く。



「もうそろそろ帰らなきゃ」



彼女が立ち上がった。



「……もう帰るんだ」



ポロリと本音が零れる。

彼女と離れがたかった。



「右京君」



呼ばれて彼女の方を向くと、目の前に彼女が迫っていて。



「また明日ね」



固まってしまって動かない僕に笑顔を向けて、彼女は帰っていった。

僕はその場に立ったまま、屋上のドアをじっと見つめて。


グラウンドからは相変わらず野球部の掛け声が聞こえる。


同じクラスなのに、彼女と話したのは今日が初めてだった。
その今日だって、数えるほどの会話しかしていない。

だけど、彼女をもっと知りたい、彼女と話したい。
そんな気持ちがわき上がる。


彼女が転校してきてから、一番彼女にひかれていたのは実は自分だったんじゃないかと感じていた――。