そして今日は彼女の引っ越し日。


恐らく僕しか知らないけれど、かといって、見送りには行かない。

僕にはどうすることも出来ないからと言えば冷たく聞こえるが、元々彼女は誰にも言わないまま引っ越すつもりだったのだから行ったって仕方がないと思う。


顔の上に開いた本を置く。
視界が暗くなって眠気を誘った。



「お兄ちゃ~ん……」



僕がさっき断ったせいで一人で遊んでいた美都が、ツンツンと服の裾を引っ張ってきた。