伊夜彦はおのれの胸にかけていた守り玉をはずし、妹の胸にかけた。青と白の瑠璃の管玉をつらねた首飾りで、真ん中にはひときわ大きな真紅の玉がきらめいている。

「この玉にはわが血が封じこめられている。一族の血がそなたを守る」

 いま一度、妹を抱きしめると、昏い闇をたたえた石室のほうへ押しやった。

「さあ、行くのだ。辛い時はいつも、兄がこの世にあることを思い出せ」

「兄上にも神のご加護を!」

 姫夜は勾玉を握りしめ、神門を開く神呪をとなえた。そのとたん、石室のなかに光があふれ、またたくまにまばゆい七色の光の渦となった。
 ふりかえりたいのをこらえて、もう一度だけ強く兄の無事を念じると、姫夜は虹色の光の滝のなかに飛びこんだ。

(兄上――)

 激しく体ごとゆさぶられるような衝撃と吐き気が姫夜を襲い、次の瞬間、姫夜のからだはあわいに舞っていた。

 生きよ、と叫ぶ兄の声を姫夜はかすかに聞いた。