すさまじい瘴気を撒き散らしながら《それ》が近づいてくるのを感じ、姫夜はおびえたように兄の袖にしがみついた。

 伊夜彦は半眼になり、神懸かりして云った。

「門を出て最初に出会うものが、そなたの命運を握る。恐れは心を曇らせる。心が曇れば神の光は届かぬ。神がそなたを導くことを信じよ」

「――はい」

 大粒の涙が姫夜の眼からこぼれ落ちた。
 伊夜彦ははじめてやさしさを見せていった。

「これからはおのれの手で運命を切り開くのだ。ワザヲギの民の誇りを忘れるな。決してくじけたりしないと、兄に誓えるか?」

「誓い……ます」