禍津姫戦記

 大きく翼を広げた朱雀の姿を刺繍した茜染めの上着をきて、耳には翡翠の玉をさげている。なかなかの伊達者ぶりだった。

「カリハ、戻ったか」

 ハバキはしたしげな笑いを含んだ声でいった。
 カリハはするどい目でハバキをにらんだ。

「ハバキ。今日の戦さ、みな勝利に酔っているようだが、おれは納得していないぞ」

「ほう、なぜだ」

「敵が退き始めたとき叩いておけばもう百は削れたはずだ。なのになぜ追わせなかった?」