禍津姫戦記

 毛皮をしき一段高くなった席に、姫夜は丁重に導かれた。衣服はこのクニの白い上着と袴にあらためている。
 紅玉を胸にかけることは忘れなかった。不安はあったが、その玉に触れていると、すこしだけ心が安らいだ。
 月光の射す庭に面して開けはなたれた板敷きの広間は、すでに飲み食いするものたちでいっぱいだった。
 あちこちに、柄杓をそえた濁り酒や、びわや梅を漬け込んだ酒の甕がおいてある。酌をする女もいたが、好き勝手に自分で酌んで飲んでいるもののほうが多い。ろくなものはないとハバキは云ったが、木の実を粉末にしてこねあげ、平たく形を整え焼いたもの。生の果実、干した果実、笹に包んで蒸した兎の肉、焼いたトリ肉を山盛りにした皿、こってりと飴色に煮付けた川魚など、手のかかった料理が並んでいた。二枚貝も豊富にあった。