男は手を離して、微笑した。

「このあたりでは見かけぬなりだな。そなたはカンナギか?」

 姫夜の着ているものが、汚れてはいても、高貴なものだけが身につける、薄く精密に織られた絹であり、手首の玉も輝きや形が並みのものではないのを見てとったらしい。
男はあっさりと、剣を革鞘に落とした。

「安心しろ。俺の他はたれもおらぬ。しばらく誰も来るなといってある。いささか殺しすぎたのでのぼせを冷ましていた」

 男はがちゃりとそばの岩に腰をおろした。