「だってギュウギュウ詰めだったから。帯が無事かなって心配するの、普通じゃない?」


「バスん中でも何回も聞かれた」


私の方は見ずに、前を向いたまま岩本さんは言った。その口調に、微かな苛つきを漂わせて。



「バスの中はバスの中です」


悔しいから、苦しい口答えをすれば、岩本さんはピタリと足を止めた。

そして、じっとりとした視線を隣の私に落とす。



「めんどくさっ」


「はっ?」


「そんな煩わしいもんは、取ってしまえ」

抑揚のない酷い棒読みでそう言うと、私の背中の帯に手を掛けた。



「やめてっ。すっごい苦労したのに。本日の集大成なのにっ!」

その手を払い落として、岩本さんの方に身体ごと向き直り、そうすることで彼から帯を遠ざけた。


岩本さんは行き場を失った左手をダランと落とし、私と向かい合った状態で冷ややかに見下げてくる。



怒った……かな?

っていうか、大の大人がこんなことで怒るの?