岩本さんの身体が離れて、すうっと身体が冷える。

二人の間にほんの少し距離をとっただけなのに、その隙間が寒くて切なくなった。



「やっぱ、送らない」

言って、岩本さんはニッと悪戯っぽく微笑んだ。



ピピッ――

甲高い機械音が鳴って、車のハザードランプが二回点滅した。



また私の手を引き歩き出した岩本さんは、迷わず社宅の階段を上り始める。そして、二階の通路の一番奥の部屋の前でようやく立ち止まった。



ドアノブの下に鍵を差し込むと、こちらに視線を寄越し、

「汚くて臭いけど我慢して」

と、薄っすら苦笑を浮かべて言う。



この感じ……。謙遜って訳でもなさそうだから、怖い。



勢いよく扉を開いた岩本さんに、

「息止めるから、大丈夫です」

と言えば、

「すぐには出れないから死ぬよ?」

と、すかさず返され背中をそっと押された。