「泣きたくなんか……」

そこまで言って、言葉に詰まった。じーんと目の奥が痛んで、視界も滲む。



「そっか」

静かな頷きが返って来て、胸もじんじんして。けれどそれは優しい痛みで、余計に泣きたくなった。



岩本さんは正しい。いつだって。


泣きたい。今すぐにでも大声で泣き叫びたい。



だって悔しいから。

『簡単にヤれそう』なんて思われて、まるで喫茶店に寄るぐらいの気軽さでラブホテルに連れて行かれて。


悔しい……。



岩本さんにぎゅうと抱き付いて、その背中に顔を埋めた。

それでも岩本さんは、何も言わずにただ、自転車をこぎ続けた。



今日の岩本さん、本当に優しい。



違うな。岩本さんは、すごく優しい。思った事をそのままストレートに口するから、それがキツく感じてしまうだけで、きっと誰よりも優しい人だ。


何となくそんな風に思ったら、益々惹かれてしまうから、ある意味残酷だ。



残酷なほどに優しい人。

うん、そんな感じ。