瞬きさえも忘れていた。

その視線の先を追えば、街並みの中、ニョッキリと突き出た背の高いビル。その天辺にはネオンで縁取られた看板が浮かび上がっている。


そこには――

HOTEL ビロード館

の文字。



たちまち顔が、カッと一気に熱を持つ。



「あそこからの帰りですけど、それが何か? あんな胡散臭い名前だったんですね、知りませんでした」

強気で捲し立てたけど、頭の中は大混乱で。ついうっかり、誤解を招くようなことを口走ってしまう。



「中も胡散臭い」

ボソリとそんなことを言って、岩本さんはニッと一瞬だけ意地悪な笑みを見せた。



「中までは知りません。入ってませんから」


「逃げて来たんだ」


「逃げてません! ちゃんとサヨナラ言ってきました!」


フッと鼻を鳴らした後、岩本さんの顔がくしゃっと綻んだ。