瞬きさえも忘れていた。

「全然、効きません」

ムッとしたままそう返せば、ふっと息を漏らして岩本さんは可笑しそうに笑った。



「そっちこそ、こんなとこで何やってんの?」

その顔に穏やかな微笑を残して、意地悪なことを問う岩本さんが憎たらしい。



「何って……飲み物買いに来ただけですけど」

苦し紛れの嘘を口にして、岩本さんの横を通り過ぎようとしたら、私の肘にそっと彼の手が触れた。


それは歩みを止めるほどの圧はなかったけれど、思わずその場に留まってしまった。



「そっ? 俺はてっきり、ビロードからの帰りかと思った」

薄い笑みを浮かべたまま、岩本さんは訳のわからないことを言う。


「何ですか? 『ビロード』って」

聞き返した途端、背中を優しく押されて、ガラス越しに立たされた。


隣の岩本さんは、ほんの少し身を屈め、斜め前方、どこか遠くを覗き込むようにして見る。