瞬きさえも忘れていた。

手にしているのはプロレス雑誌だ。

何が『エロ本』だよ。下ネタじゃん。しょーもなっ!



原因不明の怒りがフツフツと湧いてきて。


「岩本さんって、男性の裸に萌えるんですね?」

私もくっだらない下ネタで応戦する。



けれど予想通り、そんなの全然効かなくて、岩本さんはフッと穏やかに微笑むと、

「女性の裸にも、ちゃんと萌えるけど?」

更なる下ネタで返して来た。



悔しい……。



返す言葉が見付からなくて、ぶすっとふて腐れて睨み付けていたら、岩本さんは雑誌をラックに戻して、ゆったりとした動きで私の方へと身体ごと向き直った。



コツッ――

突然、私の額に岩本さんの右拳が遠慮がちに触れる。



「何するんですか?」

その手首を掴んで引き離し、ムキになって言えば、


「攻撃」

と、シレッと涼しげに答えて、ニッと両口角を上げて悪戯っぽく微笑んだ。