瞬きさえも忘れていた。

耐え切れずに立ち止まったら、岩本さんもすぐに足を止めて、そんな私を振り返った。


そして、

「何?」

と、不思議そうに小首をかしげて問うから、意味がわからずポカンと見つめ返した。



「『何?』って……。私たち、一緒に帰ってる訳じゃないですよね?」


「たまたま一緒になっただけだけど。でもだったら、一緒に帰ればよくない?」


「意味がわかりません」


ぶすっと膨れて返し、再び歩き出して岩本さんを追い越した。



懲りもせず岩本さんは、また私と並んで歩き、

「行くの?」

唐突に短く問う。


主語も述語もないんだから。無駄がないどころか、むしろ何もない。



「『行く』って、どこへですか?」


「甲本と食事」


「どうして知ってるんですか?」


「さぁ、どうしてでしょ?」


そして意地悪く口の端を上げた岩本さん。微かに細めた目も艶やかで色気があって、本当にもう嫌になる。