瞬きさえも忘れていた。

岩本さんが、プッと小さく吹き出した。


またズキッと胸に痛みが走る。だけどすぐ、笑いたければ笑えばいいって、そんな風に開き直った。



「離してください」

掴まれている腕を力いっぱい振り、空いている方の手で素早く頬を拭った。



「漏らしちゃう?」

意地悪いことを言って彼は、肩を揺らして笑う。でもその手は私の腕をしっかり掴んだままで、ちっとも離してくれない。



「バカにしてる。私を何だと思ってるんですか? いつもヘラヘラ笑ってたって、ちゃんと心があるんです。酷いこと言われたら傷つくんです。

あなたにはわからないでしょうけど。ていうか、あなたなんかにわかって欲しいなんて思わないですけど」


「あっ……怒っちゃった?」


「当然でしょう? こんなにムカついたの、ほんと、久しぶり。もしかしたら初めてかも。早くその手、離してください。私に触らないで」


怒りに任せて息巻いたら、岩本さんの手がハラリと落ちて、ようやく私の腕は自由になった。