瞬きさえも忘れていた。

「図星じゃないです。だから泣きません」

ポロッと生温かいものが右頬を滑り落ちたけど、それでも岩本さんを睨みつけて言い張った。



ふーん、とどうでも良さそうに言うと、岩本さんは少し身を屈めた。彼の顔が急接近して、こんな時でも血管がドクッと大きく脈打った。


濃くて深い漆黒の瞳が私を捕らえる。その怖いぐらいの妖艶さに、足が竦んで動けなくなった。



「じゃあ、電池貰えますか?」

目の前の顔が意地悪くほくそ笑んだ。



「すみません。トイレに行きたいので、猪飼さんに貰ってください」

俯きがちに言いながら、すれ違って通り過ぎれば、すぐに腕を掴んで引かれ、振り向かされた。



「出てくるまで待ってる」

いつもの無表情で、それが当然みたいに言うもんだから、


「無理です。おっきい方だから、時間掛かります」

苦し紛れに、とんでもない嘘が口を衝いて出てきてしまい、そんな自分に死ぬほど呆れた。