瞬きさえも忘れていた。

私が傘を閉じている間に、岩本さんはさっさと自分だけ建物の中へ入った。


やっぱり、感じ悪い。



事務所までは数メートルほどの細い通路があり、入って右手が喫煙所、左手は測量室になっている。


外に設置してある傘立てに傘を差し、ドアを開けてその通路に入れば、岩本さんがこちらを向いて待っていてくれた。



だけど、私が近付いても彼は一向に動こうとしない。狭い通路だから、岩本さんが邪魔で通れなくて、仕方なく私も立ち止まった。



「あの……」

向き合ったままじっと私を見下ろす岩本さんを不思議に思いながら、何となく口を開いてみるも、先が続かない。


邪魔だからどいて、なんてとても言えないし。



そしたら、

「ねぇ、そんなに気に入られたい?」

と。低い声が尋ねる。