瞬きさえも忘れていた。

すぐに追いついて、岩本さんの頭の上に自分の傘をかざし、「濡れますよ」と声を掛けた。



そろり、隣の私を見下げた岩本さん。そして、

「別に……」

と、素っ気ない一言が返って来た。



「風邪ひきます」

頑張って言い返せば、

「俺はガキか」

と。岩本さんは酷く呆れたように鼻で笑った。



彼が感じ悪いのは、いつものこと。こんなので、私の心は折れたりしない。

そう自分に言い聞かせて、再び口を開いた。


「事務所に用ですか?」


「電池切れ」


そう答え、岩本さんは、手にしていた細長い小型の懐中電灯を私に見せた。



「そうですか」

小さく頷いて、ニッと笑顔を作る。


もちろん、岩本さんが笑い返すなんてことするはずもなく。



重苦しい沈黙と共に、二人は事務所へ辿り着いた。