瞬きさえも忘れていた。

何となく苦手だ、こういう軽い感じ。


それに――

岩本さんの視線が痛いぐらいに刺さっていて、すごく居心地が悪い。



「あのっ……私、工場長のところへ行かないと」

早口で伝え、彼がそれに応える隙も与えず、

「どこに居るか教えてくださって、ありがとうございます。助かりました」

敢えてよそよそしいぐらいの丁寧口調で礼を言って、すぐさま身を翻した。





工場長にレジメを届けて、また事務所に戻る。

工場入口に立て掛けておいた黄色い傘を手にし、それを開きながら一歩外へ踏み出せば、すぐ目の前を歩く作業着の男の人が視界に飛び込んだ。



傘を差していないその人は、濡れるのも気にならないみたいで悠長に歩いている。


このスラリと背の高い後姿は、間違いなく岩本さんだ。



その背中を追って駆け出したら、アスファルトの上でピシャピシャと雨水が跳ねた。