「じゃ、携帯の番号教えて?」

またまたサラリと聞かれて、うっかり頷きそうになった。けれど、彼の背後、喫煙所に岩本さんが入るのが視界に入り、慌てて思い直す。



「携番はちょっと……。ごめんなさい」

笑顔を張り付けてごまかそうとしたけど、多分これ、傍から見たら苦笑だろうなと思う。



『傍』って言うのは、目の前の30号機辺りの人と――

岩本さん。



どうしてだかわからないけど、喫煙所の中の岩本さんは、涼しげに煙草を吸いながら、じぃっとこちらを見ていた。


何か嫌だ。監視されているみたい。



「えーいいじゃん。番号わかんなきゃ、どうやって誘うの?」


「えっ……同じ職場なんだし、わざわざ電話じゃなくても……。こうやって顔合わせた時でよくないですか?」


「ガード固いなぁ、梨乃ちゃん」


残念そうにこぼして、けれどすぐ彼はニッと笑った。