「えっと……工場長を探してます」


「工場長なら、細線(さいせん)に居るんじゃない? 今日、荻野さん休んでるから」


30号機辺り担当の人は、親切に教えてくれた。



細線かぁ。確か、工場の一番奥だ、遠いな。



「ありがとうございます」

軽く頭を下げて礼を言い、踵を返したところで「ねぇ」と呼び止められ、再び振り返った。



「梨乃ちゃんって彼氏いるの?」


「えっ?」


余りにも無遠慮な問いに、思わずまじまじと彼の顔を見た。


30号機辺りの人は、笑顔のままで私の答えを待っている。



「いま……せんけど」

戸惑いながら答えれば、


「そっか、じゃあ誘っても大丈夫かな。梨乃ちゃん、今度、一緒にご飯食べに行こうよ」

何でもないことのようにサラリと言われ、「はい……」と、流されるように思わず頷いてしまった。