瞬きさえも忘れていた。

はい、と答えた岩本さんは、照れ臭そうに苦笑している。



「もう! 一生に一度の大切な瞬間なのに、どうしてふざけるんですか!」


「だから、絶対に忘れないようにって思ったんだけど……失敗かぁ」


なんて言いながら、大して悔やんでいる風でもなく。



「返事は今すぐじゃなくていいから。じっくり考えて?」

穏やかにそう言って、ゆっくりと身体を回転させ、岩本さんは背を向ける。


咄嗟に、背後から勢いよく抱き付いた。



「ちょっ、梨乃、汚いって」

作業着のことを気にしているのか、岩本さんは焦燥しきった声で言う。



「パジャマだから、平気です」

平然とそう返して、両腕にぎゅっと力を込めた。



「捕まえた。もう二度と離さない。絶対に逃がさない」


「梨乃ちゃん、怖い」


そんなことを言いながらも、岩本さんは私の腕の中で、くるりと向きを変えた。



「俺が死ぬまで、傍にいてくれる?」

私の背中を両腕で包み込んで、岩本さんが耳元で囁く。



「当たり前じゃないですか。でも、私をおいて自分だけ逝くなんてこと、絶対に許しませんから」


「じゃあ、一緒に死ぬしかないね」

そう言って岩本さんは、私の耳元でふっと笑う。そのくすぐったさに、思わず肩をすぼめた。