瞬きさえも忘れていた。

ほんの少しの間をおいて、

「ありがとう。嬉しいよ、ほんと」

岩本さんはそう言って、顔をくしゃっとさせて笑う。



「いつから?」


「えっ?」


「いつからここに?」

私が住んでいるアパートの方へ視線をやって、岩本さんが問う。



「二年前からです。転職したから、そのついでに」


「辞めたんだ、填島」


「はい」


ふうん、と。どうでも良さそうな相槌をうって、岩本さんは思い出したように背後を振り返った。


数十メートル先の四つ角を、ゴミ収集車はゆっくり左折する。



「おいてかれちゃいましたよ」


「だな。でもまぁ……いっか」

何でもないことのように言って、ふっと柔らかく微笑む。



「岩本さんは? いつからこの仕事?」


「三年前から」


答えた岩本さんは、視線を足元に落とした。そして俯いたまま、

「手切れ金代わりに、仕事紹介してもらった」

ポツリ、独り言のように呟いた。



一瞬、意味がわからなかった。だけどすぐ、ここの市長が陽奈乃さんの父親だったことを思い出す。


ここに住み始めた頃、遊びに来てくれた吉田さんが教えてくれてた。