慰安旅行から帰った翌日はお休みで、その更に次の日。

朝一番に、岩本さんが事務所へ現れた。


ふらりと。電池か何かを貰いに来る時みたいに飄々としているけれど、パリッとした濃いグレーのスーツを身に纏っている。


辞表を出しに来たんだと、すぐに直感した。



管理部長とほんの少し会話を交わした後、二人は二階の会議室へと階段をのぼる。

私は自席でパソコンに向かいながら、不安な気持ちでその足音を聞いた。



今日に限って来客が異常なほど多く、そのお茶出しに負われ、パタパタ忙しく動き回っていた私。

気付けば、岩本さんと会議室に居たはずの管理部長は席に戻っていて、岩本さんが既に帰ってしまったんだと気付く。



急ぎのコピーを仕上げてすぐ、大慌てで事務所を飛び出し、そのまま門の外まで行き大通りを見渡した。


愛しい人の姿はどこにもなく。

がっかりしたせいか、急な疲労感に襲われた。心臓もばくばくとうるさいぐらいに早鐘を打っている。


くたっと項垂れて、重い足を引き摺るように事務所へ引き返した。