瞬きさえも忘れていた。

岩本さんは困ったように眉尻を下げて、私の頬を大きな両手で包み込んだ。


その親指でそっと、止め処なく伝い落ちる雫を愛でるように拭ってくれる。



「明日になったら、この夢は醒める。けど――

――現実は、そんなに悪くない」


呟くように落とされた言葉。優しい温もりと切ない痛みが相まって、一層、私の胸は締め付けられる。


でもそれは、岩本さんが自分自身に言い聞かせているようにも聞こえて。

だから、私に強要するつもりなんか更々ないと感じた。



岩本さんは多分……。

辛い現実と向き合うことは勇気がいるけれど、未来に目を向け、まずは明日への一歩を踏み出すことが大切だと、そう言いたかったんだと思う。



「岩本さん、わたし……こんなにも誰かのこと好きになったの初めてで……。

我儘で自己中な私が、好きな人のためだったら何でも出来るって思った。自分なんかどうなってもいいって思った。自分のことよりも、好きな人のことをまず考えた。

今はまだ無理だけど……だって私、まだまだ未熟で不完全なナンチャッテ大人だし……だけどいつか、

そんな風に思える人に出会えたことが、すごく幸せなんだって、そう思える日が来ると思う。

岩本さんに出会えて、本当に良かった」