瞬きさえも忘れていた。

「岩本……さん? これは……夢?」

ぼそぼそ呟きながら、確かめるようにその腕をぎゅうと掴んだ。



目の前の人は優しく目を細める。


「夢だよ」

掠れた声で囁いて、ふわっと柔らかい笑みを浮かべた。



「やっぱり夢かぁ……」

半信半疑のまま、寝ぼけた思考はそんな言葉を口からこぼす。



「ん……。だってほら、」

夢の中の彼が口を開いたと思ったら、次の瞬間、

「痛くないでしょ?」

むぎゅうっと私の右頬が摘まれた。



「いたっ! 痛いじゃん!」

思わず叫んで、反射的にその手を払い落とした。


目の前の人は、愉しそうに肩を揺らしてクツクツ笑う。



これは夢なんかじゃない。

ようやく目覚めた思考がそう確信するけど、今度は叶わない想いが鮮明に蘇ってきて、胸が苦しくなった。



「全部、夢だったらいいのに。この気持ちも、幸せな記憶も」

独り言のように呟いたら、つーんと鼻の奥が痛みだす。


目の奥もじーんと熱くなって、慌てて瞬きを何度も繰り返したけど、そんなの無駄な抵抗で。

溜り過ぎた熱いそれは、耐え切れずに溢れ出して頬を濡らした。