瞬きさえも忘れていた。

言葉を繋げられないまま、ただ、見詰め返すことしかできずにいた。


「大丈夫。仕事なんか、欲言わなきゃいくらでもあるし」

と。岩本さんは、また冗談っぽく言って、ニッと笑って見せた。



惜しみなく注がれる優しい眼差し。

でもそれは、本当なら私なんかが受けていいものじゃない。


そんな風に思ったら、胸が痛んで軋む。



「へぇ、勝ったんだ」

失笑と共に聞こえた声。


そちらに視線をやれば、目にするだけでも苦痛なほど憎い男がそこに居た。


だぼっとしたカーゴパンツのサイドポケットに両手を突っ込んで、足を広めに開いて重心を片足にかけて。



ただ立っているだけで、ふてぶてしく映るその人は、

「何でだろ? 俺には負け惜しみにしか聞こえねぇわ」

言って、白い歯を不必要なほどその口から覗かせる。



「盗み聞きしてたんなら、話早いわ」

一歩踏み出した岩本さんの袖を、咄嗟にぎゅっと掴んで引き留めた。


「何がはえんだよ(早いんだよ)? こっちはお前に話なんかねぇよ」

甲本さんは低く吐き捨て、こちらを上目づかいにねめつけた。