瞬きさえも忘れていた。

「大丈夫、心配すんな。ただ、言いたいこと言いに行くだけだから」


「言いたいこと?」


怒鳴り込みに行くんじゃないかって、益々不安になった。



「そんな顔やめろって。喧嘩なんか売る気も買う気もないから。ただ……」

そこで一旦、岩本さんは口をつぐんでしまう。


けれどすぐ、その続きをゆっくり丁寧に口にした。

「俺さ、会社辞める」


「ダメです、そんなの。アイツの思う壺じゃない。絶対『逃げた』って言われる。そんなの悔しい。負けたみたいで悔しい」

咄嗟に口を衝いて出た言葉に、岩本さんは苦笑を浮かべた。



「逃げるんじゃないし、負けてもない。梨乃があいつを拒否ってくれたから、こっちの勝ちだろ?

俺たちは……勝ったんだ」


「おれ……たち?」


「そう、俺たち。梨乃の健闘に、狡い俺はのっかった」


冗談めかしてそう返し、岩本さんは屈託なく笑った。



「でも……」

口を開いてはみるけど、何を伝えたらいいのかさっぱりわからなくて。