瞬きさえも忘れていた。

三階の通路を、大股早歩きで俯きがちに進む。


エレベーターの前、階表示に視線をやれば、1の数字。到着するのを待つことすらもどかしく思えて、歩を止めることなく素通りして、階段へと向かった。



「梨乃」

正面から呼ばれ、反射的に顔を上げてしまう。


廊下の先に立つその人は、私と視線が合うと、弾かれたように走り出した。



いつもどんな時も、想いを巡らすのは彼のことだけ。

離れても尚、愛しさは積もるばかりで、苦しさに耐える日々が今も続いている。



岩本さん……。



目の前まで来て、私の顔を覗き込むようにして見詰め、

「無事か?」

岩本さんは、消えそうなぐらいに細い声で尋ねる。



切なげな……でも優しくて温かな瞳を見上げ返して、安心すると同時に先ほどの不快感や恐怖が蘇る。


私のせいで、岩本さんは会社を辞めさせられるかもしれない。そう思ったら、引き裂かれるような痛みに呼吸が苦しくなった。