瞬きさえも忘れていた。

「謝らないで。謝ってなんか欲しくない。

好きな人が望むことだからって許すなら、私も好きな人のために、好きでもない人に抱かれる。

恨むなら――

私じゃなくて甲本さんを恨んでね?」


冷ややかに吐き捨て、逃げるように部屋を飛び出した。



今の私、最低だ。

醜くて汚い。


樽井さんが悪いわけじゃないのに。樽井さんがとめなくたって、私自身、自らの選択で、甲本さんの理不尽な要求に屈しなければいいだけの話だ。


最も卑怯なのは、甲本さんでも樽井さんでもなく、この私だ。






305号室の前で立ち止まる。


運がいいのか悪いのか、職場の人には誰一人として出くわすことなく、ここまで辿り着いた。



微かに震える指先でインターホンを押す。



もう、迷いはなかった。


こんな汚れきった私に出来ることなんて、今は一つしかないんだから……。